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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2669号 判決 1971年11月29日

原告 水郷観光開発株式会社

右代表者代表取締役 大森武雄

右訴訟代理人弁護士 根本隆

被告 司物産株式会社

右代表者代表取締役 田口精一

右訴訟代理人弁護士 河野宗夫

同 服部成太

主文

被告は原告に対し、金八八七万二、五〇〇円およびこれに対する昭和四五年一月一三日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

(一)  原告

主文第一、二項と同旨の判決および仮執行の宣言。

(二)  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

二  当事者の主張

請求原因

1  原告は、昭和四四年一一月一〇日被告代理人森喜佐男、同長岡滋夫から被告所有の伊東市鎌田字野畔一、一六一番一山林二万三、七〇七・二平方メートル(二町三反九畝一四歩)(以下本件土地という。)を代金一、七九六万円で買受け、即日右代金を完済した。

右長岡は、被告から右代理権を授与されていなかったとしても、右森から復代理人に選任されていたものである。

≪以下事実省略≫

理由

原告が昭和四四年一一月一〇日被告代理人森喜佐男との間で本件土地を買受ける契約を締結し、同人にその代金一、七九六万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

そこで、右契約締結について長岡滋夫もまた被告代理人として関与したかどうかの点はしばらくおき、右売買契約が原告主張のとおり数量指示による売買であったか否かにつき検討するに、≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。

右森喜佐男は、右契約締結に先きだち同年一〇月初旬頃、伊東市在住の不動産仲介業者であり測量事務所をも営む長岡滋夫に本件土地の売却斡旋を依頼した。長岡はさらに地元の不動産業者仲間にそれについての協力を要請していたため、原告代表取締役大森武雄は、本件土地が売りに出されていることを地元不動産業者平沢伝作を通じて知りこれを買い受ける意向をもつに至った。そこで右大森は同月下旬頃原告の営むホテル大川において平沢を交えて長岡や森と売買条件について折衝した。その折のとり決めにより右各関係者らは前記のとおり本件契約締結の日である同年一一月一〇日本件土地に集ってその見分をした上、伊東市内小島食堂において最終的な打合わせをし、被告会社事務員が東京から印鑑証明書等を持参するのを待って前記契約を結ぶに至った。ところで、大森は、かつて買受土地の坪数不足により不測の損失を蒙った経験があったため、右売買に当っては、この轍を踏まぬよう当初から意を用い、右のとおりのホテル大川での折衝段階から小島食堂での最終打合わせに至るまで長岡や森に対し再々本件土地の坪数が公簿面積だけあるかどうかを問いただしていた。前記のとおり本件契約締結当日関係者らが本件土地に集ったのも原告代表取締役大森らにおいては右土地の実測面積不分明のため長岡が中心となって実測することがホテル大川において約されていたことによるものであった(もっとも、当日は長岡が測量器具の用意を失念したということで測量はできないままとなった)。このように右大森が本件土地の面積に不安を抱いている態度を表明していたのに対し、長岡は終始公簿面積に相応する坪数がある旨言明し、右契約締結当日においては後日その測量を行うことを約していたものであり、森は長岡の右のような坪数の説明についてはその場に居合わせながらも別段異を述べるようなことがなかったばかりか、坪数等の状況については実情がわからないままに長岡の説明に委せ、右契約締結当日には、前記のとおり本件土地の測量が遂げられなかったため本件契約の締結をちゅうちょする右大森に対し同日契約を成立させるよう要請したりした。そこで、大森は、同日本件土地買受けの契約を結ぶに至ったわけであるが、本件契約書作成に際しては、後日本件土地の坪数不足が判明した場合の損失を予防するためかねて弁護士から指導を受けていたところに従い坪当り二、五〇〇円との単価をわざわざ記載し、これに公簿面積を乗じた金額が売買代金となっている旨を示してこの契約書を森ととり交した。

以上の事実を認めることができ(る)。≪証拠判断省略≫

右一連の経緯によれば、原告と被告代理人森との間の本件土地売買に際しては、原告代表者大森においては本件土地の坪数を重視して登記簿表示の面積が実際に存在することを確かめ、被告代理人森においては、同人が本件契約の予備的交渉をなす権限を与えていたものというべき長岡の言を通じて本件土地の坪数が原告の要望どおり存在することを表示していたものであり、その代金額も一応のめやすのために坪数による計算をしたものではなく、登記簿上の坪数を基礎とし坪単価に従って算定されたもので、右契約はいわゆる数量指示売買であると認めることができる。証人長岡の供述中、原告代表者は本件売買の結果本件土地の坪数に不足があるときはそれによる損失を被告と折半すべき意向を表明していた旨の供述部分は到底信用し難く、また前掲甲第二号証、乙第一号証(本件売買契約書)には、不動文字により「本件土地の面積に増減ありたるときは、末尾の物件表示の記載によるものとする」として末尾に本件土地が表示されているが、右文言は、それ自体意味が必ずしも明確でないばかりか、前認定の経緯からして少くとも本件売買が数量指示売買でないことを示す趣旨のものとは解されないので、それらはいずれも前記判断の妨げとするには足りない。

なお、被告は、本件土地について数量指示売買をなす代理権までも森に与えていたわけではない旨争うが、冒頭掲記の当事者間に争いのない事実、前掲本件売買契約書には本件売買が数量指示売買でないことを示す格段の記載をしておくよう配慮した形跡は窺い得ないこと、前認定事実および弁論の全趣旨から明らかなとおり被告は本件売買についての折衝からその成立に至るまでの一切を森に委せたままで、その間被告代表者又は担当者が介入したり特段の意向を森に指示したりするようなことはなかった事情等を総合すると、森は、本件土地の売却について、前認定のとおりの趣旨の売買契約を締結することも妨げない包括的な権限を被告から与えられていて、この権限により本件契約を成立させたものと認められる。≪証拠判断省略≫

ところで、≪証拠省略≫によれば、本件土地の実測面積は一町二反一畝〇五歩であることが認められ、前認定の経緯によれば、原告は本件契約締結当時右の実測面積を知らなかったことが明らかである。

しかして、請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

以上の事実によれば、本件土地の実際の面積は、契約に際し表示された坪数より一町一反八畝九歩不足しているもので、被告は原告に対し冒頭掲記の受領代金中より右不足分に相応する減額分の返還として単価二、五〇〇円に右坪数を乗じた積八八七万二、五〇〇円およびこれに対する右のとおり当事者間に争いのない請求原因5掲記の催告の日の翌日以降右完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よって、原告の本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥平守男)

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